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横澤さんと出会ったのは、もう20年も前のことです。
奈良県の天河神社というところで、ある夜、神殿で御神事があり、
そのとき宮司さんが、横澤さんに手のひらほどの石を渡して、
「これを吹いてみなさい」とおっしゃったんです。
横澤さんは、一生懸命に石に息吹を吹き込んでいましたが、出て
くるのは空気の漏れるような、風をしぼり出すような苦しげな音ばかり。
「音が出なければ出なくても良い。それが石笛なんだ」
それが宮司さんの言葉でした。
そして石笛は縄文時代から、神を呼ぶときに使われていたとも。
そのときわたしは後ろの拝殿にいて、その場に立ち会っておりました。
西洋音楽のように決められた「正しい音」を演奏するという認識ではなく、
その人の生命の息吹を音にする、それが石笛なんだと思いました。
いま思えば、世界でただ一人の石笛演奏家・横澤和也氏の誕生の瞬間
に立ち会っていたわけで、目に見えない大きなご縁を感じています。
それから数年後、あるパーティで偶然横澤さんにお会いしたのですが、
見事な石笛の音の響きに圧倒されました。
どこまでも澄みきった清らかな聖なる響き。
そしてなんという音の力。
縄文時代、まさしくこの音で神を呼んだのであろうと思いました。
そして、天河神社ではじめて音にならない息吹を聴いて以来、この音を発する
ようになるまでの彼の精進の深さに思い到りました。
宮司さんは、彼の天性の才能を見抜いていたのでしょうね。
その後、幾度も横澤さんの石笛の音を聴かせていただいているのですが、
「一音入魂」という表現がピッタリではないかと思います。
わたしの漫画「アマテラス」のイメージアルバムを制作することになったとき、
真っ先に思い浮かんだのが横澤さんの石笛の音です。
縄文古来よりの息吹による生命の響きこそ、CDを聴いてくださる多くの方がた
の魂の記憶にふれるのではないかと思えたのです。
ただCDは捉えられる周波数に限りがあり、横澤さんの石笛の音ははるかにそれを超え
ています。すべてを捉えられないことが残念ではあるものの、録音されたその音は古代
や未来といった時間軸を超え、神や宇宙へと拡がるスケールの大きな世界観を表現
するにふさわしいものでした。
石笛の音はまさにCD「アマテラス」の音源、音の源になってくれたのです。
その後、いくつかの創作舞踊を制作することになったときも、横澤さんの石笛に参加して
もらい、舞台で素晴らしい響きを披露してくれました。
山の頂で、森の中で、海の上で、星の下で、あらゆる自然界の中で、その時その場その
瞬間の、一期一会の音の響きを大切にする横澤さん。
「自然の中で演奏するときは、愛のある場所を探すんだよ」とおっしゃる。
それは何処なの?と聞くと両手を打って、この音が響くところが愛のある場所で、どんなところ
でも探せばかならず一箇所はある。石笛はそこで演奏するのだ、と教えてくれました。
音の響くところが、愛のあるところ。
どうかこれからも愛のある場所で生命の音を響かせてください。
美内すずえ
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